自由きままに芸術鑑賞

自由気ままに芸術鑑賞

~舞台人による、舞台人のための鑑賞記録~

『牧神の午後』-ヴァーツラフ・ニジンスキー

この作品のどれだけ観たかったことか。
話を聞けばバレエらしからぬ平面的な動きをするという、本を読めば高さのないバレエだという。

 

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そんなバレエがこの世にあるのかと疑問視していたが、愚問は観劇中に払拭された。踊りというよりも動く絵画を観ていると言った方が正しいのだろう。

エジプトの壁画を参考にしたという振付は壁画そのものであった。柔和で中性的なニジンスキーの外面からは想像もつかない、どこまでも革新的で挑戦的な振付。そして、この作品を世に残すこととなる理由がそのエンディングにある。

ニンフに恋をする牧神というストーリーが美しい情景と音楽と共に描き出されているのだが、そのエンディングはニンフが残したスカーフに牧神が自慰をするというものだ。
現代でも目を見張る様な振付にも関わらず、それをやってのけてしまうというのだからどうだろう。

非常に具体的、かつ明白な形でエンディングは訪れ、観客に戸惑いを残したまま幕を閉じる。

その後味を好むか好まざるかは人を選ぶだろうが、観客に半ば放り投げられたエンディングをいかに受け入れ、解釈していくかが我々観客に与えられた使命でもあろう。この効果は2次元的世界観の中でこそ発揮され、許される。

そしてこんなことも閉じ行く幕を眺めながら思ったのだ。「幕が閉じた後のざわめきすら、ニジンスキー計算済だったのではないか」と。

音楽を聴くだけでは分からない、バレエ界を震撼させた作品は一見の価値ありだ。